19マイルを訪れた2日目。バスを降りると、バス停で何人もの人が手に手にカマキリを持って自分の来るのを待っていた。

初日にカマキリを探している事を触れ回っていたとは言え、この対応の早さと人の多さにはちょっと感激である。

孤独な異邦でかまってくれる人がいるというのは嬉しいもので、思わずハイテンションになってしまった自分は「意気に感ず!」とばかりに、向こうの言い値でカマキリやらクモを買い捲っていると(※「マイルドにカモられてるだけじゃないの?」なんて言うなかれ)、とあるおばさんの売り物の中にこのボクサーカマキリが混じっていた。

実は自分は本種を直接手に持って見るのは初めてだったりするので、感嘆の声を上げながら売りに来たおばさんに値段を聞くと、最低ランクの値段の答が返ってきた。

「ええ〜、安過ぎる!ボクサーだよ!日本じゃ人気があるんだよ〜!」と日本から石が飛んできそうな余計な事を言ったりもしたが、おばさんをはじめ周囲の人々はただ笑顔を浮かべるだけであった。

この後、何度も現地の人から虫を買っている内にわかってきたのだが、カマキリやクモのようなあまり需要が無く扱われる事の少ない生き物に値段を付ける場合、経験が少ない分、値段は彼らの根本的な価値観に大きく影響される訳で、よって単純素朴にランカマキリやオオカレエダカマキリのような大きくて派手な虫ほど値段が上がっていくという傾向にあり、ボクサーのような地味な小型種は、彼らから見て「どこがいいのかわからん」らしく、軽く扱われてて、その分値段は安くなるようだ。

需要が増えればまた変わっていくだろうが、地味系渋物好きにはお得な話である。



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オオカレエダのような正体不明種でもないので、滞在中にメスが入手できなかったのなら撮影が終われば速やかに逃がすべき所なのだが、日本のショップにメスが入荷するかもしれないという一縷の望みと多分の未練により持ち帰ってしまった。

予想通りというか、飼育している間にいくつかのショップで何度かマレー便の入荷はあったようだが、自分の知る限りボクサーカマキリの入荷は無く、よって写真の個体はメスにめぐりあう事も無くその生涯を閉じた。

仕草の面白いカマキリなので飼育は楽しかったが、やっぱりできれば繁殖させてやりたかったなぁ。

そんなこんなで購入したボクサーカマキリの幼虫であるが、既に翅芽が膨らんで羽化が近い兆候が見て取れたので、狭いビニール袋に入れっぱなしという訳にもいかず、そこでホテルのゴミ捨て場から拾ってきた大型のペットボトルでキープしていたら、2日後に無事に羽化してくれた。

オスのせいか、活発に歩き回りよく飛翔する。

▲ボクサーポーズ。これが無いと本当にただの地味なカマキリである。